吉川さおり 参議院議員(全国比例)

国会質疑録

内閣委員会(2021年6月8日)

2021年6月10日

内閣委員会で90分(1時間30分)の質疑に立ちました。

私にとって、内閣委員会での質疑は初めての経験でした。質疑に臨んだ法案名は、「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案」(土地利用規制法案)です。

本法案は新規制定法ですが、第204回国会で内閣自らが定めた国会提出期限に遅延した唯一の「提出遅延法案」です。

よって、最初に法案提出のプロセスから問題があることを確認することとしました。

第204回国会会期末が6月16日と迫る中、参議院の審議期間が十分に確保できないことが与野党問わず大きな問題であることを参議院改革協議会報告書から明らかにし、法案の骨格を議論した有識者会議がたった3回しか開かれていないこと、関係団体や地方公共団体からヒアリングを実施していないか全く十分でないこと等を明らかにしたうえで、法律全体の立て付けから質問に入りました。

私は、従来から「束ね法案」と併せて「包括委任規定」を立法権の侵害であるとして、一貫して指摘し続けてきました。今回の土地利用規制法案でいえば、第24条が典型的な包括委任規定にあたります。

第24条「この法律に定めるもののほか、この法律のため必要な事項は、内閣府令で定める。」

この条文には、例えば、「書類の手続のほか、この法律の実施のため必要な事項を~」といった具体的な例示が一切ないことが見て取れます。

同じ内閣府令に委任する法律の例として、信託業法があります。たとえば、信託業法第89条は、「この法律に定めるもののほか、この法律の規定による免許、登録、認可、承認及び指定に関する申請の手続き、書類の提出の手続き、記載事項及び保存期間その他この法律を実施するため必要な事項は、内閣府令で定める。」として、内閣府令で定めるべき事項を細かく規定しています。

これまでは、実際にはどのような事項を定めることとするのかを具体的に明示した規定が法律には設けられてきた。このことは、法律による行政の原理の趣旨に鑑みても適当ですし、ある意味では、我が国の法律の圧倒的多数を内閣提出法律案が占める中でも維持されてきた行政府の矜持でもあると思いますが、今回は驚愕の事実も明らかになってしまいました。

それは、第24条の「必要な事項」で想定している内容について、立法府の審議の段階で明らかにすべきであるとの観点から、想定している事項について内閣官房に問うたところ、まさかの「想定なし」だったことです。

本法案は、時間不足で詳細を詰め切ることができなかったからなのか、本来であれば法律で規定するべき事柄であっても基本方針で定めることとされるなど、全体として法律による規律密度が低いと言わざるを得ません。

このため、「法律による行政の原理」から逸脱することがないか、非常に懸念されます。

法案自体がこれだけ不明瞭ですと、後になって本来は法律で定めるべき内容が定められていないことが判明し、下位法令でそれを無理矢理補うということになり、結果的に、第24条の内閣府令が国民の権利を制限したり、国民に義務を課したりすることにならないか、危惧されます。

そのようなことはないと内閣官房から答弁は得たものの、実際に内閣府令が私たちの目に触れるまで、本当に国民の権利を制限したり、義務を課するものにならないか、常に不安がつきまとうことになり、容認し難い法律の立て付けになっていると指摘せざるを得ません。

これらの問題意識を踏まえ、法案の具体的課題にや問題点について90分という限られた時間でしたが、大臣や内閣官房、防衛省に質しました。

これらを一つひとつ紹介すると非常に長くなるため、実際に質問した項目を下記にお示しすることとしますが、本法案は立法府権の侵害そのもので、白紙委任も甚だしい条文であること一点をもってして、提出し直しに値すると言えると思います。

安全保障と私権制限のバランスをとるセンシティブな法律の立案に当たって十分な議論が尽くされていないばかりか、安全保障上の実効性も上がらないことが質疑を通じて明らかになりましたし、他方で私権制限は際限なく広がるおそれも明らかになりました。

本法案の趣旨や必要性は理解するだけに、安全保障上の実効性が十分に上がらない法案が原案通り成立するとすれば、無念です。

[質疑項目(土地利用規制法案)]

1.法案提出のプロセス[内閣官房、参議院]

・閣法提出期限と本法案提出遅延理由
・参議院の充実審議のための期間(参議院)
・経済財政運営と改革の基本方針2020の閣議決定日
・国土利用の実態把握等に関する有識者会議の設置日
・国土利用の実態把握等に関する有識者会議の開催日
・パブリックコメント実施の有無
・国会提出前における関係者からの意見聴取

2.法律全体の在り方としての包括委任規定[内閣官房]

・法第24条を包括委任規定とした理由
・法第24条における「必要な事項」の具体的想定事項
・政令の中に内閣府令で定めることとする条項を設ける可能性
・行政手続法との関係
・国民の権利義務との関係

3.本法案の対象区域の考え方[内閣官房、防衛省]

・区域指定の前提となる重要施設の定義
・防衛関係施設のうち特に機能阻害行為を防止する必要がある施設
・防衛関係施設における特定重要施設の考え方
・特別注視区域の指定が想定される具体例
・経済的社会的観点と区域指定の考え方
・注視区域と特別注視区域の規制内容の違い
・特別注視区域に事前届出を義務付ける理由
・防衛省市ヶ谷地区の位置付け
・指定区域対象施設公表の在り方
・国民に対する予見可能性確保観点からの公表必要性

4.土地等利用状況調査の在り方[内閣官房]

・ 調査事項のうち所有者に関する情報(法7条第1項)
・特別注視区域において事前届出を行う事項のうち当事者に関する情報(法13条)
・条文に国籍を明示しない理由

5.土地等利用状況調査と個人情報保護[内閣官房、防衛省]

・土地等利用状況調査の趣旨(法第6条)
・報告徴収の対象となる範囲の確認(法第8条)
・情報提供に関する答弁の意味と根拠条文
・情報提供に関する仕組みの根拠を第6条とする趣旨
・個人情報保護法制との関係
・関係行政機関で情報共有を行う範囲明記の必要性
・関係行政機関等の根拠条文(防衛省設置法)

6.機能阻害行為に関する既存法律との関係性[内閣官房]

・機能阻害行為として想定される行為の類型
・機能阻害行為の準備行為の把握方法と他法との関係
・既存法律との整理の必要性

7.土地等利用状況審議会の在り方[内閣官房]

・土地等利用状況審議会の委員の想定
・土地等利用状況審議会の委員の任命について国会同意人事にする必要性
・詳細な情報公開の必要性