吉川さおり 参議院議員(全国比例)

コラム

国葬儀における法解釈と検証のあり方-その4

2022年12月4日

国葬儀における法解釈と検証のあり方-その3」の最後で、「そのうちその4を書くかもしれませんが、一旦了といたします」としましたが、政府、衆議院における検証結果が出される前に、現時点の状況だけ留めておこうと思うに至りました。

まず、12月4日時点の状況について報道ベースにはなりますが、政府、衆議院、有識者の意見を1社ずつ取り上げて確認します。

〇政府の動き
『国葬検証、公表は臨時国会閉会後 政府の有識者ヒアリング』
12月3日(土)16時52分共同通信

安倍晋三元首相の国葬を検証する政府の有識者ヒアリングの結果公表は、臨時国会閉会後となることが3日、分かった。政府関係者が明らかにした。憲法や行政法、外交など幅広い分野の専門家20~30人をめどに意見聴取を進めてきたが、氏名が公表されることを理由に断るケースが出て、目標人数に達していない。

9月に執り行われた安倍氏国葬に対する世論の賛否は割れ、野党は約12億4千万円の国費支出の妥当性や決定までの手続きへの批判を強めた。政府の意見聴取は、内閣府の国葬事務局を主体に11月から始まった。支出の妥当性や法的根拠について個別に非公開のヒアリングで論点を整理している。

〇国会(衆議院)の動き
『「国葬」検証 与野党協議会 “国会関与のルール設けるべき”』
12月2日(金)18時43分NHK

安倍元総理大臣の「国葬」を検証する与野党の協議会が開かれ、世論が二分されたことを踏まえ、今後、国葬を実施する場合には決定前に国会が関与するルールを設けるべきだという意見が相次ぎました。2日の会合では、協議会としての報告の取りまとめに向けて各党が意見を表明しました。

多くの党からは、政府が安倍氏の「国葬」の実施を決めたあと、国会への説明が速やかに行われなかったことへの苦言が呈されました。また、世論が二分されたことを踏まえ、今後、国葬を実施する場合には決定前に国会が何らかの形で関与するルールを設けるべきだという意見が相次ぎました。

一方で、実施する基準については、時の政権の恣意的な決定を避けるために設けるべきだという意見や、時代によって考え方も変わるので一律に定めるのは困難だといった意見が出されました。協議会では、2日の議論を集約したうえで、来週、衆議院議院運営委員会の理事会に報告することにしています。

〇有識者の意見
『「国葬に国会承認は不要」衆院で有識者が意見』
11月30日(水)20時22分産経新聞

衆院は30日、安倍晋三元首相の国葬について検証する協議会を国会内で開き、憲法学を専門とする有識者3人から意見聴取した。国葬実施に当たって国会の承認を求める必要はないとの見解や、政治家の国葬には客観的な基準が必要などの意見が出された。

関西学院大大学院の井上武史教授は、儀式や行事は行政権の範囲内であり、実施の是非を国会が判断すべきではないと指摘。国会の関与を認める場合も議決対象とはせず、事前報告にとどめるべきだとした。九州大の南野森教授は、安倍氏の国葬に法律上の問題はなかったと強調。一方で、評価が分かれる政治家を対象にすると対立を生むため、実施には首相在職年数といった客観的な条件が必要だと主張した。早稲田大の長谷部恭男教授も閣議決定に基づく国葬の実施に問題はなかったとした。


私は、9月8日の国葬儀の件に関する議院運営委員会での質疑で総理の答弁に対し、間髪入れず「行政権、立法権、司法権があって、行政権の判断で行い得るという解釈は、確かに法解釈論的にあり得るのかもしれません。ただ、私が今伺っているのは、手続、プロセス、国民の納得性の問題です。」と返しています

つまり、国葬儀に関して行政権の判断で行い得ることは法解釈上あり得ることを言明しています(理由は「国葬儀における法解釈と検証のあり方-その2」をご覧ください)。

ただ、その後のやり取りで、法的根拠がないことを指摘したうえで、法律上の位置付けを考えてはいかがか、とも問うています。

9月8日の議院運営委員会でのこれに該当する私の発言は以下のとおりです。

「今回、法的根拠がないこと、閣議決定だけで国葬儀を決めたということと、どちらにしても混乱を招いたということは事実だと思います。

どの行政組織にどの行政事務を所管させるかを規定する規範を組織規範と呼ぶとすると、国葬儀については内閣府設置法が組織規範に当たるんでしょう。また、組織規範による所掌とされた行政事務を執行する際によりどころとなるものを根拠規範、所掌とされた行政事務の執行を適正ならしめるものを規制規範と呼ぶとすると、国葬儀においては組織規範しかなく、根拠規範も規制規範もありません。

今回これだけ大きな問題となった以上、今後の国葬儀に関する法律上の位置付けというものを考えるおつもりは、総理、ありませんでしょうか。」

実はここは敢えて法律を制定すべき、とまで言及しないようにしました。

国民に義務を課したり権利を制限したりするものではなければ、法律上の根拠は不要との考え方である「侵害留保説」の考えに私は立っていたためです。

「法律上の位置付けを考えるつもりはないか」と問うたのは、これだけ大きな問題となった以上、国葬儀に関し、法律上の位置付けは考えてしかるべきではないかと思ったからです。よって、法的根拠について、政府の検証でどのような記述になるのか非常に興味を持っています。

また、衆議院での有識者ヒアリングで報道されている限りでは、行政権の判断で行い得るということはそのとおりであることがそれぞれから発言があったようですし、衆議院での各会派の議論は、「国葬議における法解釈と検証のあり方-その3」でも既に書いたとおりの状況になっているようにも見受けられます。

国葬議における法解釈と検証のあり方-その3(抜粋)
「結果として国論を二分してしまった国葬儀について、国会で一致した見解が導き出せるのか。導き出せるとすれば、実施や基準の有無ではなく、国会における手続やプロセスを定めることではないかと思いますが、課題設定の段階において与野党で論点がかみ合わないのではないかとも思うのです。」

「さらに、誤解をおそれずに表現するとすれば、今、この段階で国会で検証しようとすることそのものが、国論を二分してしまった国葬儀を制度化する方に向いてしまっているのではないかとも考えられますし、胸中は複雑です。」

今は検証結果が公表されるまで注視するのみですが、政府の有識者ヒアリングにおいては目標人数に達していないとされていることをはじめ、既に気になる点がありますので、結果が示された後、機会があれば「その5」を書いてみたいと思います。

国葬儀における法解釈と検証のあり方-その1」10月22日
国葬議における法解釈と検証のあり方-その2」10月24日
国葬儀における法解釈と検証のあり方-その3」10月30日